取引先の倒産という予期せぬ事態に備える中小企業倒産防止共済は、万が一の際の資金繰りを助ける制度として多くの企業で活用されています。
しかし、いざという時だけでなく、将来的な事業計画を見据えた解約のタイミングも重要になってきます。
特に、解約によって受け取る一時金が翌年度の税金に与える影響は無視できません。
今回は、この共済制度の解約について、いつでも可能かどうか、税金との関係、そして賢い解約タイミングの考え方について解説します。
倒産防止共済の解約はいつでも可能か
いつでも解約できる
中小企業倒産防止共済、通称「経営セーフティ共済」は、その制度の特性上、契約者の都合による任意解約はもちろんのこと、法人の解散や破産、個人事業主の死亡、事業の全部または一部の譲渡といった、事業継続が困難になったり、事業主体が変わったりする様々な理由で、原則としていつでも解約が可能です。
例えば、事業の将来性を見据えた事業転換、後継者不在による事業承継の完了、あるいは経営状況の悪化により事業を縮小・廃止する決断をした場合など、企業のライフステージにおける様々な節目で解約が認められています。
納付期間で返戻率変動
ただし、解約時に受け取れる解約手当金、あるいは解約返戻金と呼ばれる金額は、掛金を納付した期間や解約に至った理由によって変動します。
制度では、一定期間掛金を納付することで、将来的なリスクに備えるための資金を積み立てていくことを想定していますが、掛金の納付期間が短いまま解約した場合、受け取れる金額が納付した掛金の総額を下回ってしまうことがあります。
具体的には、掛金を12ヶ月以上納付していたとしても、納付期間が40ヶ月未満といった比較的短い期間である場合には、解約手当金の返戻率が100%を下回り、元本割れとなるケースも少なくありません。
この返戻率の変動は、制度の安定的な運営と、長期的なリスクヘッジという制度本来の趣旨に基づいています。

解約手当金を受け取ると税金はどうなる
解約手当金は課税対象
中小企業倒産防止共済の掛金は、法人が支払う場合は損金として、個人事業主が支払う場合は必要経費として計上できるため、法人税や所得税の計算において、その年の課税所得を圧縮する効果、すなわち節税効果が期待できます。
これは、将来的な倒産リスクに備えつつ、現在の税負担を軽減できるという大きなメリットとなります。
しかし、この制度を解約した際に受け取ることになる解約手当金は、納付期間中に経費計上した掛金とは異なり、解約した事業年度の「事業所得」または「雑収入」として扱われ、課税対象となります。
一時金受け取りで税負担増
解約手当金は、原則として一時金としてのみ受け取ることができ、分割して受け取ることはできません。
この一時金での受け取りが、解約した事業年度の税負担を大きく増加させる要因となります。
例えば、解約手当金が1000万円であった場合、この1000万円がそのままその年の所得に加算され、法人の場合は法人税率(例えば30%とすると300万円)、個人事業主の場合は所得税率(累進課税のため、所得額によってはさらに高い税率)が適用されることになります。
これは、掛金の納付期間中に毎年のように数万円ずつの節税効果を得ていたものが、解約時にはその節税額の合計額をはるかに超える金額が課税される、という形でまとめて税金として納付することになるためです。

解約手当金の返戻率の目安
納付期間と解約理由で変動
解約手当金の返戻率は、掛金の納付月数(納付期間)と解約理由によって細かく規定されています。
解約理由は主に、契約者自身の意思による「任意解約」、共済機構側が一定の要件を満たしたと判断した場合に解約を認める「みなし解約」、そして制度運営上の理由などによる「機構解約」に分類されます。
一般的に、掛金の納付期間が長くなればなるほど、解約手当金の返戻率は高くなる傾向にあります。
これは、長期にわたって制度を支えてくれたことへの報奨とも言えます。
40ヶ月未満は元本割れ
掛金の納付が12ヶ月未満の場合、解約手当金は0%となり、納付した掛金は全額戻ってきません。
これは、いわゆる「掛け捨て」の状態となります。
12ヶ月以上納付を継続していても、40ヶ月未満の期間で任意解約を選んだ場合、返戻率は100%を下回り、納付した掛金の総額よりも少ない金額しか受け取れない、つまり元本割れとなる可能性が非常に高くなります。
例えば、3年(36ヶ月)かけて掛金総額300万円を納付し、任意解約すると、返戻率が98%で294万円しか戻ってこない、といったケースも考えられます。
一方で、掛金の納付が40ヶ月以上続いた場合には、納付した掛金の全額が戻ってくることが保証されます。
倒産防止共済の解約タイミングを考える
税負担を考慮したタイミング
解約手当金が一時金として課税されることを踏まえ、解約のタイミングは慎重に検討する必要があります。
その事業年度に多額の税金が課されることを避けるためには、解約手当金による利益増加分を、他の経費や損失で相殺できるような事業年度を選ぶことが賢明です。
例えば、大規模な設備投資を計画している年度、多額の研究開発費や広告宣伝費の支出が見込まれる年度、あるいはM&A(合併・買収)に伴う一時的な費用が発生する年度などに解約することで、解約手当金による所得増加分を相殺し、結果として法人税や所得税の負担を抑えることが期待できます。
出口戦略と合わせて検討
中小企業倒産防止共済の掛金納付期間中に得られた節税効果を無駄にせず、かつ解約後の税負担を最小限に抑えるためには、制度利用の「出口戦略」を事前にしっかりと立てておくことが極めて重要です。
解約手当金を受け取る事業年度に、役員退職金や設備投資、あるいは未払費用の計上など、多額の経費を計上する計画と解約のタイミングを連動させることで、税負担の増加を効果的に緩和することが可能になります。
また、解約によって得られた一時金を、新規事業の立ち上げ資金や、将来的な事業拡大のための設備投資資金など、具体的な事業計画にどのように活用していくのかという視点も、解約タイミングを判断する上で考慮すべき点です。
専門家である税理士に相談し、自社の状況に合わせた最適な戦略を練ることが推奨されます。
まとめ
中小企業倒産防止共済は、掛金の損金(必要経費)算入による継続的な節税効果と、取引先の倒産という万が一の事態に際して迅速な資金調達を可能にするという大きなメリットを有する制度です。
一方で、解約時に受け取る解約手当金は課税対象となり、一時金で一括して受け取る性質上、解約した事業年度の税負担が大幅に増加する可能性があるというデメリットも併せ持っています。
解約自体はいつでも可能ですが、掛金の納付期間によっては、受け取れる金額が納付額を下回る元本割れのリスクも伴います。
したがって、この共済制度を有効活用するためには、単に解約が可能かどうかだけでなく、解約手当金の返戻率、その年の税負担状況、そして役員退職金や設備投資といった他の経費計上との兼ね合いといった、いわゆる「出口戦略」を十分に考慮し、自社の事業計画や財務状況に照らし合わせた最適な解約タイミングを見極めることが、極めて重要であると言えるでしょう。