農業経営を営む上で、税金は避けて通れない重要な要素です。
日々の農作業に加えて、複雑な税金の知識を習得し、適切に対応することは容易ではありません。
しかし、農業経営の持続的な発展のためには、どのような税金がかかるのか、どのような優遇措置があるのか、そして効果的な節税方法を知っておくことが不可欠です。
今回は、農業経営に関わる税金の基本から、利用できる税制優遇、そして実践的な節税対策までを分かりやすく解説します。
農業経営にかかる税金は何か
所得税法人税など基本税金
農業所得は、原則として個人の場合は所得税、法人の場合は法人税の課税対象となります。
収穫物の販売収入や補助金収入など、農業経営で得た所得に対して税金が課せられます。
経営の状況に応じて、農業経営基盤強化準備金制度や、スマート農業・環境負荷低減のための設備投資を促進する税制(スマート農業技術活用投資促進税制、みどり投資促進税制など)が利用できる場合があります。
これらは、将来の投資や設備導入に備えて所得の一部を積み立てたり、特定の設備投資を行った場合に税負担を軽減したりする制度です。
また、青色申告を行うことで、一定の要件を満たせば所得から最高65万円(または10万円)の特別控除を受けることができ、税負担を軽減できます。
固定資産税軽油引取税など事業税
農業に用いる農地や家屋、農業機械などの固定資産に対しては、固定資産税が課税されます。
ただし、農地については、その維持・保全のために特例措置が設けられている場合があります。
農業機械の燃料となる軽油については、軽油引取税がかかりますが、農業用として使用される場合には免税措置や還付制度があります。
同様に、農業用A重油についても石油石炭税の免税・還付、地球温暖化対策税の還付といった軽減措置が適用されることがあります。
農業に対する事業税や事業所税についても、非課税となる場合があります。
農業特有の税制概要
農業経営においては、農地の取得、保有、譲渡、そして将来の事業承継(贈与・相続)に関連して、様々な税制が適用されます。
農地を取得した際には、登録免許税や不動産取得税の特例措置が適用されることがあります。
農地を譲渡した場合には、一定の要件を満たせば所得税・法人税において特別控除が適用されることがあります。
事業承継を見据えた場合、農地等に係る贈与税・相続税については、納税猶予制度が利用できる場合があります。
これは、後継者への円滑な事業承継を支援し、農業経営の継続を図るための重要な制度です。
その他、共同利用施設や再生可能エネルギー発電設備、公害防止用施設などの取得・保有に関しても、固定資産税などの特例措置が用意されていることがあります。

農業経営を支援する税制優遇はあるか
設備投資促進の税制措置
農業経営の近代化・効率化を支援するため、様々な設備投資促進策が設けられています。
例えば、スマート農業技術の導入や環境負荷低減に資する設備投資に対しては、所得税・法人税における特別控除や税額控除などの優遇措置があります。
中小企業等経営強化法に基づく認定計画に沿った機械装置の導入や、160万円以上の農業機械の取得なども、税制上の優遇措置の対象となることがあります。
国庫補助金等を受けて取得した固定資産については、圧縮額を損金算入できる特例や、少額の減価償却資産(取得価額が10万円~20万円未満など)を損金算入できる特例も、設備投資を後押しします。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制なども、持続可能な農業経営を支援する観点から導入されています。
農地保有譲渡に関する税制
農業経営の規模縮小や、担い手への農地集積を促進するため、農地を譲渡した場合の税制優遇も存在します。
要件を満たす農地を譲渡した際には、所得税・法人税において特別控除が適用されることがあります。
これにより、農地の流動化を促し、効率的な農業経営の実現を支援しています。
贈与相続時の納税猶予
農業経営の継続において、世代間の事業承継は非常に重要な課題です。
特に、農地などの資産を後継者に引き継ぐ際には、多額の贈与税や相続税が発生する可能性があります。
このような場合に、一定の要件を満たせば、相続税や贈与税の納税が猶予される制度があります。
これにより、納税資金の確保が困難な場合でも、円滑な事業承継を可能にし、農業経営の維持・発展を支えています。

農業経営で利用できる節税対策は
青色申告による所得軽減
農業所得がある場合、確定申告で青色申告を選択することは、節税の基本中の基本と言えます。
青色申告の承認を受けることで、一定の要件を満たせば、最大65万円(または10万円)の青色申告特別控除を所得から差し引くことができます。
これにより、実質的な所得を減らし、納めるべき所得税額を軽減することが可能です。
さらに、赤字が生じた場合には、その損失を翌年以降に繰り越す(純損失の繰り越し控除)ことができるため、将来の税負担を軽減することにも繋がります。
経費計上による所得圧縮
農業経営に必要な支出は、適切に経費として計上することで、課税所得を圧縮し、税額を減らすことができます。
具体的には、種苗費、肥料費、農薬費、農業用機械の購入・修理費、燃料費、人件費、減価償却費などが該当します。
また、自宅兼事務所の家賃や水道光熱費の一部、農業研修のための旅費なども、事業に関連するものであれば経費となる可能性があります。
日々の取引を正確に記録し、漏れなく経費計上することが重要です。
農業所得以外の損益通算
農業所得以外にも、不動産所得や一時所得など、他の所得がある場合、農業経営で生じた損失(赤字)をこれらの所得と通算できる場合があります(損益通算)。
例えば、農業用機械の損害などにより生じた損失は、他の所得と損益通算して所得税額を減らすことが可能です。
これにより、全体の税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、損益通算できる損失の種類や対象となる所得には制限があるため、個別のケースで確認が必要です。
農業税金で知っておくべきことは
経営状況で適用税制は変わる
農業経営にかかる税金や利用できる税制優遇、節税対策は、経営規模、所得額、保有資産、事業承継の状況など、個々の経営状況によって大きく異なります。
例えば、大規模な設備投資を行う場合と、小規模な農地を維持する場合では、適用される税制も変わってきます。
そのため、ご自身の経営状況を正確に把握した上で、どの税制が適用可能か、どのような対策が有効かを検討する必要があります。
専門家への相談は必須
税法は非常に複雑であり、専門的な知識がなければ正確な理解や適用は困難です。
特に、農業特有の税制や、各種優遇措置、節税対策については、税理士や税務署などの専門家に相談することが不可欠です。
専門家は、最新の税法や制度に精通しており、個々の経営状況に最適なアドバイスを提供してくれます。
不明な点や不安な点があれば、早めに相談するようにしましょう。
最新情報確認の重要性
税制は、国の政策や経済状況の変化に応じて、改正されることがあります。
そのため、常に最新の税法や関連情報を確認することが重要です。
農林水産省や国税庁のウェブサイト、税理士からの情報提供などを通じて、最新の情報を入手し、ご自身の経営に影響がないか確認するように心がけましょう。
まとめ
農業経営における税金は、所得税・法人税、事業税、固定資産税など多岐にわたりますが、同時に、設備投資促進や農地保有、事業承継を支援する多くの税制優遇措置も存在します。
青色申告の活用や経費計上による節税対策を適切に行うことで、税負担を軽減し、経営の安定化に繋げることが可能です。
しかし、税法は複雑であり、経営状況によって適用される制度も異なります。
そのため、常に最新情報を把握し、税理士などの専門家に相談しながら、ご自身の経営に最適な税務戦略を立てていくことが、持続的な農業経営のために不可欠と言えるでしょう。