会社経営において、事業年度の終わりに行われる法人決算は、納税という義務を果たすだけでなく、一年間の経営成績と期末時点の財政状態を確定させる、避けては通れない極めて重要な手続きです。これは会社の「健康診断」とも言え、その結果は金融機関や株主といった利害関係者に対する重要な報告書となります。
この手続きを正確かつスムーズに進めるためには、必要な書類の準備から税務申告、そして厳格な期限やリスク管理まで、幅広い知識と計画的な準備が必要です。
今回は、法人決算の一連の手続きについて、具体的なステップや注意点を踏まえながら詳しく解説します。
法人決算の手続き
決算手続きの流れ
法人決算の手続きは、事業年度末日を迎えた後、まず一年間のすべての取引を記帳し、試算表を作成することから始まります。次に、期末時点の正しい財産状況や損益を反映させるための「決算整理仕訳」を行います。これには、在庫(棚卸資産)の計上、減価償却費の計算、未払金や前払金といった費用の期間按分、貸倒引当金の設定などが含まれます。
この決算整理を経て、最終的な「貸借対照表」や「損益計算書」、「株主資本等変動計算書」といった決算報告書を作成します。
その後、これらの財務諸表に基づき、法人税、消費税などの税額を計算し、税務申告書を作成します。申告書の提出と税金の納付をもって一連の税務手続きは完了です。
ただし、株式会社の場合は、これらに加えて定時株主総会を開催し、決算内容の承認を得る手続きも必要となります。
必要書類の準備
決算から申告までに必要な書類は多岐にわたりますが、主に以下のものが挙げられます。
・決算報告書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書など)
・税務申告書(法人税申告書、地方法人税申告書、法人事業概況説明書、消費税申告書など)
・勘定科目内訳明細書(税務申告書に添付する、各勘定科目の詳細な内訳書)
これらの書類は、日々の取引の証拠となる領収書や請求書、契約書といった証憑書類に基づいて、正確な数字と情報で作成されなければなりません。
特に税務申告に関連する書類は、税務署に提出する重要な公的文書であるため、誤りがないよう細心の注意が求められます。これらの書類および証憑書類は、法律で定められた期間(原則7年間)、税務調査に備えて整理保管しておく義務があります。
税務申告
税務申告は、作成した決算書と申告書に基づき、国(税務署)や地方自治体(都道府県・市町村)に対して税額を報告し、納税する手続きです。
主な税金には「法人税(国税)」「地方法人税(国税)」「法人住民税(地方税)」「法人事業税(地方税)」「消費税(国税)」があります。
申告書の提出方法は、税務署の窓口への持参、郵送、そしてインターネットを利用した電子申告(e-Tax)から選択できます。近年は、手続きの効率化や24時間提出可能といったメリットから、e-Taxの利用が主流となっています。
申告後、申告内容に基づいて計算された税額を、定められた期限までに金融機関やインターネットバンキング等で納付します。
株主総会と登記
株式会社の場合、作成した決算報告書の内容を、事業年度の終了後一定の時期に開催する「定時株主総会」において株主に報告し、その承認を得なければなりません。
株主総会では、決算報告のほか、剰余金の配当や役員の選任といった重要事項が審議・決議されます。
株主総会で役員が改選された場合など、登記事項に変更があった際には、法務局で変更登記手続きが必要です。決算内容そのものを登記するわけではありませんが、決算と株主総会、登記は一連の流れとして関連しています。

決算手続きの期限はいつ?
申告期限と納付期限
法人税、法人住民税、法人事業税の申告と納付の期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内」です。
例えば、3月31日が事業年度末日の会社の場合は、5月31日が期限となります。消費税の申告・納付期限も同様に、課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。
ただし、定款で定時株主総会を事業年度末から3ヶ月以内に開催することを定めている場合など、特定の要件を満たせば、申告期限を1ヶ月延長する届出を提出することが可能です。しかし、この場合でも納付期限は延長されないため、2ヶ月以内に見込みの税額を納付する必要がある点に注意が必要です。
期限を過ぎるとどうなるか
申告期限や納付期限を一日でも過ぎると、ペナルティとして様々な附帯税が課せられます。
納付が遅れたことに対する利息である「延滞税」、申告が遅れたことに対する罰金である「無申告加算税」、仮装や隠蔽があった場合の「重加算税」などがあります。
さらに、2期連続で期限後申告となった場合には、節税メリットの大きい「青色申告」の承認が取り消されるという、経営上非常に大きな不利益を被る可能性があります。
期限後申告の方法
万が一、期限を過ぎてしまった場合でも、一日でも早く申告・納税することが重要です。
申告が遅れても支払う意思があることを示すため、まずは税務署に連絡し、事情を説明した上で指示を仰ぎましょう。
たとえ納税資金が不足していても、申告だけでも期限内に行うことで、無申告加算税という重いペナルティを回避できます。申告と納税は別々の手続きであることを覚えておきましょう。

税理士に依頼する場合の手続きは?
税理士の選び方
税理士は税務・会計の専門家ですが、それぞれ得意な業種や専門分野があります。
自社の業種に詳しいか、レスポンスは迅速か、節税対策や経営に関するアドバイスを積極的に行ってくれるか、といった視点で選びましょう。
複数の税理士と面談し、サービス内容や費用、そして経営者との相性を比較検討することをお勧めします。
依頼内容の確認
税理士への依頼内容は、日々の記帳から全てを任せる「丸投げ」から、自社で記帳した内容のチェックと決算・申告業務のみを依頼する場合まで様々です。
どこまでの業務を依頼するのか、その範囲を明確に定義し、双方で認識を合わせておくことがトラブル防止に繋がります。
費用と契約
税理士への報酬は、会社の規模や依頼する業務内容によって大きく異なります。
決算・申告業務のみを依頼する場合、中小企業で15万円~30万円程度が相場とされています。
契約前には必ず詳細な見積書を依頼し、月額の顧問料や決算料の内訳、追加料金が発生するケースなどを確認した上で、書面で契約を締結しましょう。
電子申告(e-Tax)で手続きするには?
e-Taxのメリット
e-Taxは、インターネット経由で国税の申告や納税、申請・届出ができるシステムです。
税務署の開庁時間に縛られず24時間いつでも提出できるため、時間と手間を大幅に削減できます。
また、会計ソフトと連携させることで、計算ミスや転記ミスを防ぎ、正確な申告に繋がるというメリットもあります。
利用開始の手続き
法人がe-Taxを利用するには、e-Taxのウェブサイトで利用者識別番号を取得し、電子証明書を用意する必要があります。
近年では、G-Biz IDを取得することで、より簡便に手続きを開始できるようになっています。
実際には、多くの企業が会計ソフトの機能を利用したり、顧問税理士を通じて電子申告を行っています。
操作方法
e-Taxの操作方法はウェブサイトに詳細なマニュアルがありますが、会計ソフトを利用する場合は、ソフトの指示に従って操作するだけで申告データを作成・送信できます。
これにより、専門的な知識がなくてもスムーズに電子申告を完了させることが可能です。
電子申告の注意点
電子申告を行う際には、利用しているパソコンのセキュリティ対策を万全にすることが重要です。
また、申告データを送信した後は、手続きが正常に完了したことを示す「受信通知」を必ず確認し、証拠として保存しておきましょう。
まとめ
今回は、法人決算の手続きについて、その具体的な流れから期限、専門家への依頼、電子申告の方法までを網羅的に解説しました。
法人決算は複雑で手間のかかる手続きですが、事業年度の早い段階から証憑書類の整理などを進めておけば、スムーズに完了させることができます。
定められた期限を守り、正確な手続きを行うことは、無用なペナルティを回避し、会社の社会的信用を維持し、経営を安定させることに直結します。
もし手続きに少しでも不安や不明な点があれば、単独で悩まず、管轄の税務署や信頼できる税理士に相談することをお勧めします。