変化の激しい現代のビジネス環境において、スムーズな事業運営と持続的な成長を実現するためには、自社の経営状況を正確かつ迅速に把握することが不可欠です。年に一度の年次決算は会社の「健康診断」に例えられますが、それだけでは経営判断のスピードに対応できません。
そこで、毎月の「健康チェック」として多くの企業が導入を検討しているのが「月次決算」です。
しかし、その導入にあたっては、会計ソフトの選定から業務フローの構築まで、具体的な費用体系が気になる方も多いのではないでしょうか。
今回は、月次決算の導入にかかる費用について、初期費用とランニングコストの内訳を具体的に解説します。
月次決算導入に必要な初期費用
会計ソフトの導入費用
月次決算を効率的に行う上で、まず必要となるのが会計ソフトです。
会計ソフトには、インターネット経由で利用する「クラウド型」と、自社のPCやサーバーにインストールする「オンプレミス型」があり、機能や価格も大きく異なります。
「freee会計」や「マネーフォワード クラウド会計」に代表されるクラウド型は、初期費用が比較的安価で導入も容易なため、特に中小企業で広く利用されています。
一方、オンプレミス型は、初期費用が高額になる傾向がありますが、業界特有の要件に合わせたカスタマイズや、より高度なセキュリティを確保したい場合に選ばれます。
導入費用は、選択するソフトの種類や利用するユーザー数、機能によって数万円から数十万円、場合によってはそれ以上と大きく変動するため、自社の業務フローや既存システムとの連携性も考慮して比較検討することが重要です。
コンサルティング費用
単に会計ソフトを導入するだけでなく、精度の高い月次決算の仕組みを構築するためには、税理士や中小企業診断士といった専門家によるコンサルティングが必要となる場合があります。
コンサルティングの範囲は、現状の経理業務フローの分析と課題点の洗い出し、最適な会計ソフトの選定支援、新しい業務フローの設計、経理担当者への運用指導やマニュアル作成まで多岐にわたります。
会計ソフトの導入支援のみを依頼する場合に比べ、業務全体の最適化まで含めて依頼する場合は高額になる傾向があり、費用相場はコンサルタントの専門性やプロジェクトの規模によって数十万円から数百万円程度と幅広いです。
初期設定費用
会計ソフトを導入した後、実際に運用を開始するためには、自社の業務に合わせた初期設定が必要です。
これには、経営状況を的確に把握するための管理会計の視点を取り入れた勘定科目の設定、過去データの移行、金融機関やクレジットカードとの連携設定、月次レポートのフォーマット作成などが含まれます。
これらの作業は自社で行うことも可能ですが、専門業者に依頼することで、後々の運用を見据えた最適な設定が可能となり、結果的に効率性を高めることができます。
費用は作業内容に応じて変動しますが、数万円から数十万円程度が目安です。

月次決算のランニングコストの内訳は?
会計ソフトの保守費用
クラウド型の会計ソフトの場合、システムのアップデートやサーバー管理、法改正への対応といった保守費用は、月額の利用料金に含まれていることが一般的です。
一方、オンプレミス型の場合は、別途年間保守契約を結ぶことが多く、ライセンス料の10~15%程度が相場とされています。
これには、システムのアップデート費用や技術的なサポート費用などが含まれます。
人件費
月次決算を運用するということは、経理担当者が毎月、決算と同様の作業を行うことを意味し、業務負担の増加は避けられません。
そのため、人件費はランニングコストの大きな部分を占めます。
特に月末月初に業務が集中し、残業代が増加する可能性があります。
また、単なるデータ入力作業だけでなく、計数分析や経営陣への報告資料作成など、より高度なスキルが求められるようになります。
業務効率化のためのシステム導入や、後述する外部委託を検討することで、人件費の最適化を図る必要があります。
外部委託費用
記帳代行から月次決算書の作成、財務分析まで、月次決算業務の一部または全部を税理士事務所などの外部専門業者に委託することも有効な選択肢です。
委託費用は、委託する業務範囲(記帳代行のみか、分析・報告まで含むかなど)や、毎月の仕訳数によって大きく変動します。
例えば、記帳代行のみであれば月額数万円から可能ですが、経営会議への参加や詳細な分析レポートまで依頼する場合には、より高額な費用が発生します。

月次決算導入費用はいくらかかる?
企業規模別の費用相場
月次決算の導入・運用費用は、企業の売上高や従業員数、取引の複雑さによって大きく異なります。
あくまで一般的な目安として、年商1億円未満の中小企業の場合、初期費用は30万円~100万円程度、ランニングコストは月額3万円~10万円程度です。
これが年商10億円規模の中堅企業になると、初期費用は100万円~500万円程度、ランニングコストは月額10万円~30万円程度に及ぶ可能性があります。
会計ソフトの種類別の費用相場
会計ソフトの種類によっても費用は大きく異なります。
クラウド型会計ソフトは、初期費用が0円~10万円程度(初期設定支援など)、ランニングコストは月額数千円~5万円程度が中心です。
一方、オンプレミス型会計ソフトは、ライセンス購入やサーバー構築などで初期費用が50万円~数百万円、ランニングコストとして年間保守費用が別途発生します。
導入支援サービス別の費用相場
専門業者に依頼する導入支援サービスの内容によっても費用は大きく変動します。
会計ソフトの基本的な設定作業のみであれば5万円~20万円程度、経理業務フローの見直しやマニュアル作成まで含めると30万円~100万円程度、プロジェクト管理を含む全体的なコンサルティングとなると100万円を超えるケースも珍しくありません。
月次決算導入費用を抑えるには?
クラウド会計ソフトの活用
費用を抑える上で、クラウド会計ソフトの活用は非常に有効です。
初期費用が安価なだけでなく、銀行口座やクレジットカード明細を自動で取り込む機能(API連携)を使えば、データ入力の手間が大幅に削減され、人件費の抑制に直結します。
また、場所を選ばずアクセスできるため、テレワークなど多様な働き方にも対応でき、業務効率化に繋がります。
自社でできることは内製化する
外部委託費用を抑えるためには、可能な範囲で業務を内製化することも一つの方法です。
例えば、定型的・反復的なデータ入力作業は自社で行い、専門的な判断が必要な決算整理や財務分析のみを専門家に依頼するといった役割分担が考えられます。
ただし、何が自社にとって最も効率的か、費用対効果を見極めることが重要です。
補助金の活用
会計ソフトの導入やITを活用した業務効率化には、「IT導入補助金」などの公的な支援制度が利用できる場合があります。
これらの補助金を活用することで、導入費用の一部が補助され、初期投資の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
利用できる補助金がないか、積極的に情報収集することをお勧めします。
まとめ
月次決算の導入費用は、初期費用とランニングコストの両方を総合的に考慮する必要があります。
初期費用は会計ソフトやコンサルティングの選択によって、ランニングコストは人件費や業務委託の範囲によって大きく変動します。
費用を抑えるためには、クラウド会計ソフトや補助金の活用、適切な業務の内製化などを検討することが重要です。
しかし、最も大切なのは、費用対効果の視点です。
月次決算の導入によって得られる「迅速な経営判断」「金融機関からの信頼向上」「業績悪化の早期発見」といったメリットと比較し、自社の成長にとって最適な導入計画を立てることが、成功の鍵となります。