個人事業主として独立し、事業の成長とともに法人化を視野に入れる経営者は少なくありません。
しかし、法人化という選択肢を検討する過程で、自身の事業形態が意図せず「労働者」とみなされるリスクに直面する可能性も考慮する必要があります。
これは、税務上の問題だけでなく、労働法規の適用という観点からも重要な課題となります。
今回は、個人事業主が「労働者」と判断される具体的なリスクとその判断基準、そしてご自身の働き方を診断するためのチェックポイントについて解説します。
法人化を検討する個人事業主が労働者とみなされるリスク
偽装請負による雇用関係の発生リスク
業務委託契約を結んでいても、実質的に発注元からの指揮命令下で業務を行っていると判断される場合、偽装請負とみなされ、法的な雇用関係が発生するリスクが生じます。
これにより、発注元は労働者に対する社会保険料の負担や、労働時間管理、解雇規制といった労働法規上の義務を負うことになり、個人事業主自身も労働者としての権利を主張できるようになる可能性があります。
税務上の追徴課税リスク
税務当局が個人事業主の働き方を実質的な雇用関係と判断した場合、事業主が本来支払うべきであった給与所得税や社会保険料などが、個人事業主の所得から源泉徴収されていなかったことを問題視することがあります。
この結果、発注元に対して過去に遡って源泉所得税や法人税、消費税などの追徴課税が課される可能性があり、事業運営に大きな影響を及ぼす事態に発展しかねません。
法令遵守の必要性
一度「労働者」とみなされると、事業主は労働基準法、労働契約法、最低賃金法、社会保険関連法規など、雇用に関する様々な法令を遵守する必要が生じます。
これには、労働時間管理、休憩時間の付与、有給休暇の取得、労働条件の明示、安全配慮義務などが含まれ、これらを怠った場合には罰則や損害賠償請求のリスクに直面することになります。

「労働者」と「事業者」を分ける判断基準
指揮監督関係の有無
労働者と事業者を分ける最も重要な基準の一つは、発注元による指揮監督関係の有無です。
具体的には、業務の進め方、時間、場所、報告義務などについて、発注元が具体的な指示や命令を行い、個人事業主がそれに従わなければならない状況にあるかどうかで判断されます。
対して、事業者は自らの裁量で業務を遂行し、発注元への報告義務も限定的であることが一般的です。
報酬が労務の対価か否か
支払われる報酬が、提供された労働力(労務)そのものに対して支払われているのか、それとも事業の成果や提供された役務(サービス)に対して支払われているのかという点も重要な判断要素です。
一般的に、労働者は労働時間や日数に応じて固定的に報酬が支払われる傾向がありますが、事業者は業務の遂行度や達成した成果に応じて報酬が変動することが多く、リスクとリターンを共有する関係性が特徴です。
業務の諾否の自由と代替性
個人事業主には、依頼された業務を受けるか受けないかを選択できる自由(諾否の自由)があり、また、他の事業者に業務を委託したり、他の事業者のサービスを利用したりできる(代替性)ことが、事業者であることの証左となります。
もし、依頼された業務を断ることが実質的に難しく、かつ、その業務しか遂行できない、あるいは代替できる人材がいないといった状況であれば、労働者とみなされる可能性が高まります。

自分の働き方が「労働者」か判断するチェックリスト
指揮監督に関するチェック項目
発注元から、業務の開始・終了時間、休憩時間、業務の進め方、具体的な作業指示などについて、細かく指示を受けていますか?
業務遂行中に、発注元の担当者から頻繁な報告や指示が求められますか?
業務日報や報告書の内容について、発注元から詳細なチェックや修正指示がありますか?
これらの質問に「はい」が多い場合、指揮監督関係が強く、労働者とみなされるリスクが高まります。
報酬・拘束性に関するチェック項目
報酬は、提供した仕事量や時間に関わらず、月額固定給のように支払われていますか?
特定の業務に常時・専属的に拘束され、他の事業を行うことが困難な状況ですか?
発注元が業務に必要な、特定の設備や道具、ソフトウェアなどを無償または安価で提供し、それらを使用しないと業務が遂行できない状況ですか?
これらの項目に該当する場合、労働者としての側面が強まっていると考えられます。
業務の自由度・代替性に関するチェック項目
依頼された業務を断ることが難しいと感じますか?
業務で成果を上げたとしても、それが直接的な報酬の増加に繋がりにくいですか?
業務の遂行にあたり、自らの裁量で作業手順や進捗を決定する自由はほとんどありませんか?
自身のスキルや経験を活かして、他のクライアントからも同様の業務を受注できる状況にありますか?
これらの質問で「いいえ」が多い、あるいは「はい」が多い場合、事業者としての独立性が低いと判断される可能性があります。
労働者リスクが高い場合の法人化判断
法人化のメリット・デメリット再評価
自身の働き方が労働者とみなされるリスクが高いと判断された場合、法人化によるメリット・デメリットを改めて慎重に評価することが不可欠です。
例えば、雇用関係が発生した場合の社会保険料負担や、給与所得としての税負担などを考慮し、法人化が本当に事業拡大や税負担軽減に繋がるのか、あるいは逆にリスクを増大させるのかを冷静に分析する必要があります。
専門家への相談の重要性
労働者とみなされるリスクが高い状況での法人化は、専門的な知識が不可欠です。
税理士や弁護士などの専門家に相談し、ご自身の事業の実態や契約内容を詳細に分析してもらうことで、法的なリスクを正確に把握し、適切な法人化のタイミングや方法についてアドバイスを得ることが極めて重要になります。
契約見直しによるリスク低減
法人化を急ぐのではなく、まずは発注元との契約内容を見直すことから始めることも有効な手段です。
請負契約の内容を明確にし、指揮監督を受けない形での業務遂行や、報酬体系を成果連動型にするなど、契約書上で「事業者」としての独立性をより明確にすることで、労働者とみなされるリスクを低減できる可能性があります。
まとめ
個人事業主が法人化を検討する際、自身の働き方が「労働者」とみなされるリスクを軽視することはできません。
偽装請負や税務上の追徴課税といったリスクを回避するためには、指揮監督関係、報酬の性質、業務の自由度、代替性といった判断基準を理解し、ご自身の状況を客観的に把握することが重要です。
もし労働者リスクが高いと判断された場合は、法人化のメリット・デメリットを再評価し、専門家への相談や発注元との契約見直しといった対策を講じることで、事業の安定的な発展に繋げることができます。