財産を次世代へ円滑に引き継ぐにあたり、相続税の負担は多くの資産家にとって無視できない課題です。
特に、現金や預貯金といった金融資産だけでなく、不動産を多く保有している場合、その評価額の計算方法や相続税への影響について、具体的な知識が求められます。
相続税の計算上、不動産は現金とは異なる評価方法が取られ、適切に活用することで総税額を圧縮できる可能性を秘めています。
今回は、不動産が相続税の節税にどのように貢献するのか、その具体的な仕組みや有効な活用法、そして注意すべきポイントについて、詳細に解説していきます。
不動産による相続税節税の可能性
現金より不動産の方が評価額が低くなる
相続税の算出においては、保有する財産の評価額が課税対象額を決定する重要な要素となります。
金融資産、例えば現金や預貯金は、その額面通りの評価額となるため、相続財産全体に占める割合が高いと、相続税総額も大きくなる傾向があります。
これに対し、不動産(土地や建物)は、相続税法上の評価額が、一般的に市場価格よりも低く算定される仕組みが用意されています。
これは、不動産が持つ物理的な特性、利用価値の制約、および経年劣化などを考慮した評価基準が適用されるためであり、相続財産全体としての評価額を圧縮し、結果として相続税の総額を軽減する可能性を秘めているのです。
評価額の引き下げで相続税額が圧縮される
不動産の相続税評価額は、公的な指標に基づき算出されるものの、実際の市場価格(実勢価格)と比較すると、しばしば低く抑えられます。
具体的には、土地の評価においては「路線価」や「固定資産税評価額」が基準となり、建物についても減価償却などを考慮した評価額が用いられます。
さらに、相続税法には「小規模宅地等の特例」といった、特定の不動産、例えば自宅敷地や事業用・賃貸用土地の評価額を大幅に減額できる制度が存在します。
これらの評価額の引き下げ措置を効果的に組み合わせることで、相続税の課税対象となる財産総額を圧縮し、結果として納税額を大きく軽減することが可能となります。

相続税の節税に効果的な不動産活用法は何か?
自宅の相続税評価額を減らす方法
自身が居住する自宅(土地・建物)も、相続税対策の対象となり得ます。
特に、自宅の敷地(土地)については、「小規模宅地等の特例」を適用することで、その相続税評価額を最大50%まで減額できる可能性があります。
この特例は、被相続人が居住していた土地や、相続人が事業や居住のために引き続き利用する土地に対して適用され、一定の要件(相続税の申告期限まで土地を保有・使用することなど)を満たすことで、評価額の大きな圧縮が実現し、相続税負担を大幅に軽減することができます。
建物の評価額についても、経年劣化を考慮した減価償却費の計算が適用されるため、建築当初よりも相続時の評価額は低くなります。
賃貸物件(アパート・マンション)の活用法
賃貸物件(アパートやマンション)の取得や所有は、相続税対策として有効な手段の一つです。
土地については、賃貸の用に供されている土地(貸家建付地)として評価されることで、自用の宅地として評価される場合よりも、さらに評価額が低くなる傾向があります。
また、建物の評価額も、賃貸用の建物として評価され、かつ減価償却により年々下がっていきます。
これにより、賃貸物件を所有することは、相続財産全体の評価額を圧縮する効果が期待できます。
さらに、賃貸物件から得られる家賃収入は、相続開始時点での現金や預貯金とは異なり、相続税の課税対象となる評価額が相続税法上の規定に基づいて計算されるため、節税効果が期待できるのです。
土地の評価額を下げる方法
相続税対策として土地の評価額を下げる方法は複数存在します。
最も効果的なものの一つが、前述した「小規模宅地等の特例」の適用です。
これは、被相続人が所有していた土地のうち、特定事業用宅地等、特定同族会社用事業用宅地等、あるいは居住用宅地等について、相続人が一定の要件を満たす場合に、その評価額を大幅に減額する制度であり、相続税額の圧縮に大きく寄与します。
また、土地の形状が不整形であったり、間口が狭かったり、高低差があったりするなどの「宅地の利用上の状況」も、評価額に影響を与える要因となります。
さらに、土地を分割して相続させる、あるいは相続財産全体を不動産に組み替えるといった、財産の組み換えによる評価額の調整も、専門家のアドバイスのもと検討されるべき手法です。

不動産評価額が相続税額を減らす仕組みとは?
路線価に基づく土地の評価方法
相続税における土地の評価は、原則として国税庁が毎年発表する「路線価」を基に行われます。
路線価とは、道路に面した標準的な宅地の1平方メートルあたりの価額を示すもので、公示価格の約80%が目安とされています。
この路線価に、対象となる土地の面積を乗じたものが、土地の相続税評価額の基本となります。
しかし、これはあくまで標準的な価格であるため、実際の土地の形状(不整形、間口・奥行きのバランス)、高低差、接道状況、利用状況など、個別の状況に応じて「補正率」が適用され、最終的な評価額が算出されます。
これらの補正率の適用によって、実際の市場価格よりも評価額が低くなるケースも少なくありません。
小規模宅地等の特例による評価減
「小規模宅地等の特例」は、相続税の計算において、特定の要件を満たす土地の評価額を大幅に減額できる、相続税節税策の根幹をなす制度です。
この特例が適用される土地は、主に「特定居住用宅地等(自宅敷地)」、「特定事業用宅地等(事業用土地)」、「特定同族会社用事業用宅地等」の3種類に分類されます。
それぞれの土地について、定められた面積の上限内で、評価額を最大80%まで減額することが可能です。
例えば、配偶者が自宅敷地を相続する場合、最大240平方メートルまで評価額が50%減額されます。
この制度を最大限に活用することで、相続税の総額を劇的に圧縮することが可能となり、納税負担を軽減する上で非常に有効な手段となります。
不動産を使った相続税対策で失敗しないためのポイントは?
節税効果と維持管理コストのバランス
不動産を活用した相続税対策を検討する際には、期待される節税効果だけでなく、物件の維持管理にかかるコストとのバランスを慎重に考慮する必要があります。
特に、賃貸物件を新たに購入したり、既存の不動産を賃貸用に転用したりする場合、固定資産税、都市計画税、修繕費、空室リスク、管理手数料、火災保険料などのランニングコストが発生します。
これらのコストが、相続税の節税効果を上回ってしまい、かえって手取りの資産が減少してしまう可能性も否定できません。
そのため、物件の収益性、想定される修繕費用、将来的な金利変動リスクなどを詳細にシミュレーションし、長期的な視点で収支と節税効果を比較検討することが不可欠です。
相続人同士のトラブル回避
不動産は、その性質上、分割が難しく、評価額の算定や権利関係が複雑になりがちであるため、相続人間での意見の対立やトラブルの原因となりやすい財産です。
例えば、自宅を相続する相続人が決まった場合、他の相続人への代償金支払いの問題が生じたり、遺産分割協議が難航したりするケースが考えられます。
また、賃貸物件を相続した場合、収益の分配方法や物件の管理・売却に関する方針について、相続人全員の合意を得ることが困難になることもあります。
こうしたトラブルを未然に防ぐためには、生前から被相続人が相続人全員の意向を丁寧に聞き取り、遺言書を作成するなど、相続財産の分け方について明確な意思表示をしておくことが極めて重要となります。
専門家への相談の重要性
相続税法や不動産評価に関する知識は非常に専門的であり、複雑な規定や特例が存在するため、個人だけで正確な判断を下すことは困難を伴います。
特に、不動産を活用した相続税対策は、その効果やリスクを正確に把握し、法的に問題なく実行することが求められます。
税法上の評価方法、各種特例の適用要件、将来的な不動産市場の動向、さらには相続人間の関係性まで考慮した上で、最適なアドバイスを受けるためには、税理士、不動産鑑定士、弁護士などの専門家への相談が不可欠です。
彼らの専門知識と実務経験に基づいた助言を得ることで、誤った判断による失敗を防ぎ、効果的かつ安全な相続税対策を実行することができるのです。
まとめ
不動産は、現金や預貯金と比較して相続税法上の評価額が低く抑えられる特性があり、さらに「小規模宅地等の特例」などを活用することで、その評価額を大幅に減額できる可能性を秘めています。
自宅の敷地、賃貸物件の土地や建物、事業用地などが節税対象となり得ます。
これらの不動産を活用した相続税対策を成功させるためには、まず不動産評価の仕組みや各種特例の内容を正確に理解することが重要です。
それに加え、期待される節税効果と維持管理コストとのバランス、相続人同士の円滑なコミュニケーションと合意形成、そして複雑な税務や法律に関する専門家への相談が不可欠となります。
これらの点を踏まえ、計画的に対策を進めることで、円滑な資産承継と相続税負担の軽減を実現することが可能となるでしょう。